校長の小さなつぶやき
2023.07.14

未来を見つめて(後編)―人口縮小社会への備え②

校長の小さなつぶやき(20)「未来を見つめて(後編)―人口縮小社会への備え②」

「未来を見つめて(後編)―人口縮小社会への備え②」

校長の小さなつぶやき(19)「未来を見つめて(中編)」の続きとなります。
社会が変わるんですから、学びに関する考え方や学び方そのものが変わるはずです。アジアを見ればASEANなどの発展途上国は、教育面でも第二次世界大戦前後の宗主国による統治の影響を受けてきました。そして経済発展の中で見えてきたことは、欧米(特に英米)の教育システムのフレームとコンテンツで学んできた若者の活躍です。日本は経済力の強さのゆえにASEANの国々の教育事情は見えなかった(見る必要はなかった)ために、気づいたときには…今やっと、人材育成の危機感を叫ぶ声が聞こえるようになりました。今回は、人口減少の進行と入国管理法の改正で考えなければならないことを述べた19号に続いてまた少し、長いお話をさせていただきます。

目次
4.新しい学び方で、未来の力を
5.興味関心を持つ力、「気づき」の力の種は小学校で
6.学びのパラダイム・シフトとグローバル化対応力


4.新しい学び方で、未来の力を

★雇用のグローバル化の進行に加えて、AIやRPAが社会や生活に細部に浸透します。したがって、先ず、未来に生きていく子どもたちへの教育が、日本国内での教育観のまま、世界の中で言えばローカル的な従来型の教育観のままでいいのでしょうか、と問いたいと思います。これまでと変わらないこぢんまりとした学習方法や思考パターン、内向きの視野や目標設定でいいのか…という疑問を持つことです。日本の外での活躍だけではなく、日本の中での活躍でもグローバル・スタンダードが適宜に必要になる。どんな力が求められるのか。単に英語が話せるということがグローバル・スタンダードではないことは、もうすでに誰もが知るところでしょう。では、何を以ってグローバル・スタンダードの力と呼ぶのか。また、どのようにその力を身に付けていくのか。
★『校長の小さなつぶやき』18号で触れた「構成的な学び」がカギになります。日本ではやっと取り入れられるようになった学習観です。新しい学び方のようですが世界の中では何も新しくはなく、欧米と比較すると半世紀の後れです。評価方法も変わってきました。観点別評価の導入や学習者の主体的かつ能動的な学びを評価するルーブリックなどが取り入れられてきています。これまでのペーパーテストで定型的な答の正否で評価する方法から大きく変わってきました。
★構成的な学びやアクティブ・ラーニングなどでは、新しい「気づき」や「発見」をそれまでの経験と照らし合わせて、そこで納得する気持ちや不思議に思う気持ち、疑問に思うことを自分の新しい知識として新たに組み立て直すそうという変化が生まれます。この変化を肯定するわけです。この学び方の経験が、正解や特定の答の無い問題や課題を解く力に繋がります。求められる主体性は、この学び方から育ちます。
★たくさんの知識を持ち数理的処理能力の高い人材でも、答のない問題の論議になると黙り込んで自分の意見を発することが苦手というのが、日本人が一様に抱える課題です。が、それは仕方のないことです。そういう学び方をしてこなかったからです。そして、小学校から高等学校までの12年間で定型的な学びで、的確に速やかに答を出すことが学習という感覚が染みついてしまえば、独り善がりな夢は個性の範疇で述べることはできても、何かの課題解決に向けての建設的で創造的なレポートが苦手…になったとしても不思議ではありません。意見を出せない。対立ではなく協働的に解決策を出し合うことが苦手という特性が育ってしまう、どんどん話が進んでいくと、日本の若者はグループの中で後れていく…。
★日本は、初等・中等教育の各教科の学習では、その先に繋がる学術的専門分野に向けた基礎基本の習得として非常に効果的な学習法とを生み出し、均質的で高い基礎学力は社会の高度な発展を支えてきました。OECD諸国で実施されるPISA、基礎的なアカデミックスキルのテストでは決して低くはない成績を示してきています。優秀な学びを誇ります。しかし、一方で、スモールステップ方式での行動主義的学習法で定型的な知識や技能の習得方法の習慣化の中で、学習はそういうもの…という認識で多くの学校は止まってしまった、社会も止まっていると言えます。今の文科行政の「主体的な学び」という言葉に唐突感を感じる方も少なくはないと思いますが、それは、止まってしまった学習観とは全く違う学習観だからです。
★日本の子どもには夢がない、あるいは自己肯定感が低い、と言われることもあります。仕方がありません。学びの評価がスモールステップ方式や行動主義的学習による達成度での評価(数値化)だけで、人物までも順位付けされてしまうような雰囲気が少なからずある。学んだことで内面にどういう変化が起こっているのかということなど数値化できないモノは無視され、取り組んできた際の非認知能力の成長は重視されてきませんでした。
★認知能力だけの評価が強調されるだけでは、そこでの達成度が低ければ自尊感情は育ちにくいでしょう。また、視線を社会の様々なことに結ばないスモールステップ方式での行動主義的学習法では、夢などなかなか持てないと思います。行動主義的学習法での評価のように数値化できないものは忌避されてきた。おもしろい探究型の学びであっても学習や勉強として認識されないことも多々あると思います。興味や関心を持っていることでも直接勉強には関係しないと見なされると、無駄な時間として扱われることもあるでしょう。まず、それでいいのか…という疑問を持つべきなのです。

 

5.興味関心を持つ力、「気づき」の力の種は小学校で

★社会に出れば最低でも半世紀近くは働き続けます。その長い、長い期間を見通すことは不可能ですが、変化が続く社会で働き続ける上で必要なことのカギはあります。少なくとも、社会に不足しているもの、あったら便利なもの、あるいは不十分なシステム、起こっている問題、将来的に放置できない課題、まだ答や対策がないことへの着眼の力とそれにアプローチする力です。気づき、興味や関心です。当たりまえのことですが、これがビジネスモデルになることも再認識したいところです。
★中高の段階に進めば、教科の学習が大事になりますが、その学びの動機になる興味関心をどうやって持つかが大事になります。いま身のまわりに起こっている問題は未来への課題で、その課題に取り組みことが将来的には仕事や職業にもなります。その興味関心に引き起こされる学びを通した活動が、実社会での自己実現に向けたプロセスの第一歩になる可能性が高いのです。自分の興味関心を大学に繋いで自己実現する。中高はそのための学びの土台となります。ゆえに、「学びを社会に繋ぐ」ことが大切です。学びの必然性を感じられなければ、日常の学習活動も無味乾燥に近くなります。ですから、興味関心、言い方を変えればそれへの「気づき」の力をどれだけ心の奥に醸成するか。その気づきの基礎力は中高からではやや遅いのです。
★それは小学校段階での教育の課題です。小学生には、見るもの、触れるものが未知で未経験のことで、不可思議。新鮮な気持ちで「気づく」こと、関心を深めて追っていくこと、その感性の基礎力を小学段階で育てることが大事です。新鮮な驚き、発見、気づきを学びに繋いでいくことが大事で、周囲は、気づいたことへの賞賛や励ましをします。また、解決したいと取り組む気持ちを具体化する方法の助言をしたり、場所を提供したり、あるいは、知らないうちに学びへと進めさせる仕掛けや行事を与えたり…が、小学校の大きな役割です。
★育った感性をもって中高に進み、少し高度に社会の課題を考えるようになるわけです。六浦中・高でも、六浦小学校で豊かな感性と基礎力が育て来た児童が、立派に夢を叶えてゆく現実を見ています。小学校でどんなふうに学んでどんなふうに卒業するかが大事なのです。ただし、基本的な言語力と基礎である数理的処理力も習得することは言うまでもありません。ですから、そこに「個別最適化」の環境が提供されることもいっそう必要で、ICT環境はそこで活かされるべきものとしても有効な手立てで六浦小での取り組みはそこにもあります。

 

6.学びのパラダイム・シフトとグローバル化対応力

★話をまとめていきます。国内労働市場でのグローバル化の加速は入国管理法の改正の流れで確実に進むと考えるべきでしょう。これまでの日本社会のあり方、構成の中では考えられない社会のグローバル化の進行ですから、教育の中でのグローバル化への対応力の育成が、これまでとは違った捉え方とレベルで必要となるでしょう。したがって、「学び」の捉え方そのものの変容が必要なのです。人口減少社会によって国内外で進むグローバル環境の中で生きる力の育成には、「学び」のパラダイム・シフトが必要なのです。
★学びのパラダイム・シフト。これまでの学習観の呪縛から解放されることが必要です。ただし、解放は否定とは違います。これまでの学習観だけに縛られる考え方からの解放です。人口減少による社会の構造的な変化の中で自己実現を図るには、小学校から高等学校の段階での学び方に関係する複合的な課題があります。
★世界に通じる学び方で、非認知能力の土台の育成とアカデミックスキルに繋がる確かな基礎学力の習得。そして、グローバル化に臆病にならない気持ちの育ち。そして、海外へ飛び出す勇気や決断もその確かなものは、小学時代における非認知能力の土台に立つ気づきによる追求力、基礎学力の習得が少なからず影響します。人口縮小の時代に備える力の基礎の習得は、小学校教育のあり方にかかっていると言えます。
★人口が縮小しても社会は営みを続けます。これまで以上に海外との経済交流が深くなります。海外での営業活動が国内よりも大きくなる一方で、国内生産、国内の製造力ももっと強化することも求められます。国内外のどちらでも海外人材の登用が進みます。当たり前に進むグローバル化です。国内での就職を考えるにも職種によっては、特にこれまでの文系志望者は国内中心の視野だけで自己実現を考えるのではなく、専攻分野によっては最初から大学は海外で…という進路もあっていいでしょう。本格的なグローバル化対応力をつけるための進路選択は、これまでとは違ったレベルで当然視される時代に入ってきています。
★世界の発展途上国の発展と教育の関係を見てみます。そのほとんどの国は、経済発展を目指して個人的にも社会的にも先進国に(から)学んできています。親族一族で学費を準備し、子どもに国際的な学習環境を与えているという話はよく聞きます。子どもを先進国で学ばせることは、国づくりに貢献する国際間の人流も形成してきました。
★その逆がこれからの日本です。豊かだった社会が縮小していくわけです。国内の労働市場も国際化が進みます。日本で働くにも、世界との繋がりやインターフェイスを形成する力が重要になるでしょう。国内がグローバル化する日本の未来、世界との繋がりがますます太くなる日本の未来、…子どもたちの時代の日本には、かつてのシルクロードの交易都市として栄えたサマルカンドや、あるいは繁栄をきわめたものの人口減少で衰退し観光都市と化していったベネチアのような社会への変化も予想すべきです。これまでの国内だけを映す視野で、定形型の学習観で自己実現を考えることは難しくなるのではないでしょうか。
★人口縮小は、新たな学習観を考えることを…また、場合によっては取るべき進路を再考することをも…求めると感じます。

〒236-0037 
横浜市金沢区六浦東 1-50-1
TEL:045-701-8285/FAX:045-783-5342