校長の小さなつぶやき
2023.10.23

分かりやすい授業って…何?

<ご挨拶>

学校説明会にいらした方から『校長の小さなつぶやき』の感想をいただくことがよくあります。昨年2022年の4月の着任から始めましたが、「色々なお話で学校のことがよくわかります」とおっしゃってくださり嬉しい限りです。「六浦中・高の『校長のつぶやき』と併せて読ませてもらってます」という方もいらっしゃり、関東六浦の教育の連続の模索を感じてくだされば幸いです。今日は、少しかたくるしいお話になります。

 

 

校長の小さなつぶやき(25) 「分かりやすい授業って…何?」

 

教員は授業の準備をする時に「教える側」として、その単元で子どもたちが習得すべき事柄をどうやってわかりやすく教えるか、楽しい学びにするか…に集中します。経験を重ねてコツを覚え得意の型もできてくると、「学ぶ側」の子どもたちの思考作業のスピードを越えて待てなくなることも・・・そんな経験も少なからずです。分かりやすさを誇って独り善がりに陥りがちなことを振り返りつつ、子どもを中心にする学びを考える、これが大切です。

 

 「ゆとり教育」の前、日本の戦後の教育史上で最高の詰め込みの時代(今は高校での範囲のものが中学校で学ぶような時代)は、教える側の教授のテクニックが教員の評価尺度に直結する時代と言えるでしょう。当時は日本全国で、授業は教師の「チョーク&トーク」100%による一斉講義で知識注入型。塾や予備校では解法・解答のテクニックを上手に教授する講師が人気を博す。「カリスマ講師」はまさにそれ。魅力ある授業を学びに予備校に足を運ぶ現役の学校の先生も見られた時代でした。

理屈抜きで覚えなければならない(本当は理屈がありますが・・・)基礎基本はありますし、覚えやすくテクニックを教授するという傾向は今日も強くあります。「九九」などは典型です。合理的な教授法を全く否定はしません。特に高度経済成長時代は、国際競争は国内での経済競争でもあり、社会的ステータスと連動して受験(競争)にも繋がってましたから、国民の学力レベルの向上と生産性を高めるため、熱心なトレーニングと効率的な学び方(構想主義的学習理論)は必然となったのでしょう。明治維新からの一斉講義で知識注入型での授業や学習とそれに依る評価方法は、これ以降「鉄板」で学習論と学力観の主流でした。

しかし、考え直さなければならない時代に差し掛かっています。日本は経済競争で強い国でなくなって久しく、サプライチェーンが世界に広がって国際競争の差も小さくなってきた今、エネルギーも資源もない日本がVUCAの未来にいかに生きていくかという課題を考えれば分かることです。旧態依然とした学力観で素直に鍛えられる中での「長・短」の「短」を考え直す必要があります。

 

「分かりやすい授業」の「分かりやすい」を少し捉え直す必要があるでしょう。児童が受動的に学ぶことを前提にして、覚えるため習熟するための「分かりやすさ」の追求だけではなく、さらに、次に何を学ぶべきなのか、何を課題として感じ何を調べてみたいのか・・・へのインセンティブに導く(構成主義的学習法)、子どもの自走的な学びへのファシリテートの力が教師には必要です。子どもたちにいかに興味を持たせるか、子どもの中のある素朴な興味関心のフックに授業の内容がどうやって引っかかるか・・・そういう授業づくりが、新しい「分かりやすい授業」の定義なのではないかと強く感じます。

 

2010年代半ばからダボス会議(世界経済フォーラム)で経済の動きにも使われるようになった「VUCA」という言葉。先行きが不透明な社会情勢を表して、ビジネス界でも急速に使われるようになりました。紛争(戦争)だらけの国際情勢に気候変動、そしてAIによるシンギュラリティの予兆からVUCAが徐々に実感される変化に包まれています。色々な人によって語られてきていますが、予測が困難なVUCAの時代にすでに突入しています。いま学校に求められる教育は予測が困難な時代を生き抜く力を付けること、これは明らかでしょう。

従来の学習観で、受け身が中心の知識の詰め込みや記憶の単純作業、処理の作業だけへの習熟ではない学びが、学齢的に小学校に求められています。六浦小学校は、従来の学びに対してはICTを活用し、楽しいe-learning自学教材を導入して個別最適化の学びの環境を補強しながら、そして、現地や現物、ホンモノへのアプローチもたくさん準備する。興味関心を高める工夫を進めようと奮闘しています。「分かりやすい授業」とは・・・が、六浦小学校の新しいチャレンジです。

*VUCA:Volatility:変動性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性の頭文字をとった合成語。これまでスタンダードだと思われてきたことが通用しない社会状況を指す。

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